ISSUE 1 声を仕事にすること
フィールドは違えど、声という生まれ持った個性を武器に活躍されているおふたり。お仕事を始めるまでの経緯から、お仕事に対する思いについてお話していただきました。
ISSUE 2 多様性について考える
さまざまな場所で多様性という言葉が聞こえてくる中、声という個性を活かしたお仕事をされているお二人に多様性について、それぞれの目線でお話ししていただきました。
この仕事を始めるまで
──まずは、お二人の経歴について教えてください。──
杉浦直哉(以下すぎ): 僕自身は陰キャでコミュ障なので自分が人前に出るとは思っていなくて、ラジオならスタジオで喋っていればお仕事になるかなと思ってアナウンスコースのある専門学校に入りました。
mio(以下m):それでそのまま今の事務所に・・・
杉:当時憧れているラジオパーソナリティさん、DJさんが所属している事務所があって、そこを受けたんですが、「君はうちの事務所には要らない。」と、ズバッと落とされました。その後拾っていただいたのが今の事務所という流れです。
m:なるほど。でも結果オーライだったかもしれませんよ。
杉:当時入りたかった事務所のタレントさんとお仕事でご一緒することもあるんですが、「絶対負けへんからな!」と思いながら頑張っています。
m:ナイスガッツですね。私は小学校高学年のころから声の仕事に興味があって、当時おじいちゃんがラジカセを貸してくれたんですよ。それを使って自分の声を録音して再生してたら思ってたのと違う、面白いってなって。姉がアニメや漫画が好きだったのもあって、声優というお仕事のことを知ったんです。そして声優になりたいと当時から思っていました。その後、芸術系の高校に進んでお芝居やナレーションを学びました。そしてナレーションを教えてくれていた先生が所属していた事務所のオーディションを受けて、それが今の事務所です。
なので、高校卒業してからずっと今の業界にいます。
福祉は幸せ、障がいは個性
──続いてのテーマは、「福祉の役割」についてお聞きしたいと思います。──
m:難しいテーマですね。役割ね。私、福祉って何だろうって。なんとなく色んな行政のサービスだったり、差オートだったり、サポートだったりは分かるんですけど、そもそもなんだろうと思って検索したんですよ。「幸福」の事なんですよ。幸せとか、幸福の事。そもそもの福祉の言葉の意味は「幸せ」なんです。そこから法的サービスとかになっていくんですけど、もともとの意味は「幸せ」。だから「わぁー、今日空キレイ」とか「美味しい、幸せ」とか。そういう、ちょっとした幸せを感じるための生活をキープするものなのかなって。病気でしんどいとか、色々ごちゃごちゃして「私はもうダメだ」ってなっちゃったら幸せ感じにくいじゃないですか。ちょっとした小さな幸せに気づけるくらいの余裕のある生活をサポートしてくれるのが福祉の役割なのかなって思いました。杉浦さんはどうですか?
杉:福祉と言っても色んな福祉がある訳で。児童福祉、障がい者福祉、高齢者福祉とかあったりするし、障がい者福祉ってところで考えると、僕たちはエンタメ業界にいる訳じゃないですか。色んな障がいを持ってる方とお話しさせてもらっていると、エンタメ業界って凄く個性が求められる場所でもある訳です。で、障がいを持ってる人って皆、すごい個性的なんです。これは僕の考えですけど、障がい者とそうじゃない人の線引きするのって僕はあんまり個人的には好きじゃなくて、障がい者と呼ばれない人も得意・不得意はあるし。もちろん線を引いて、「支えないといけない人」を支えるっていうのも大切なんですけど。こう明確に線引きして「障がいを持ってる人です」、「あなたはそうじゃないです」っていう線引きの仕方ってあんまり好きじゃなくて、「障がいって何だろう」と思った時に、いわゆる普通とよばれる「普通の人はこうだよね」というのが苦手だったり、難しかったり、というのから線を引くところがあるのかな。と思ったりするんですよね。
M:いわゆる障がいと呼ばれる壁のことですよね。障がいを持つ人に障がいがあるのではなく、社会の仕組みに障害がある。そのものを障がいと言っているので、まさにそういう事ですよね。
杉:エンタメの世界に居いるものとして個性という所を言ったら、何かが出来ないことも個性になる可能性があるんですよ。例えば、僕もトークの中で自虐トークとか結構よありますけど、「こういうことを失敗しました」’「こういうことが出来ませんでした」、僕はそれを面白く伝えることによって笑ってくれたらそれがエンタメになったりするわけですよ。だからその障がいを持っているというの物凄い個性があるかもしれない。
m:武器かもしれない。
杉:凄い可能性かもしれない。でも線引きしてしまう事で、出来ない、ダメ、そういう風にもって行ってしまうのは違うと思ってて。じゃあ福祉の役割とはっていうのは、その線を引いてしまって、自分たちと分けるのではなくて、これは凄い可能性があるかもしれないと言って繋ぐ役目というか、コーディネートするのが福祉かなっていうのを個人的に思っている事なんですよ。
M:なるほどねぇ。個性はその人しか持っていないもの、その人が持っていて活かしさえすれば良いものになるというのがあるので、福祉で世の中に繋いでいくって事ですね。
杉:皆が適材適所でパチっとハマるような社会になったら多分もっともっと幸せもっと増えて良い社会になるんじゃないかなって思んですよね。でもそれは今、いろんなところでみんなが線引きしていってて適材適所じゃないという部分もたくさんあって、その中で回っているから社会的にうまくいっていない部分がたくさんあって、それをできるだけ色んな歯車を合わせていく、というのが福祉の1つの役割なのかなという事を思ったりもします。
エンタメから考える福祉
──福祉に対してのイメージについて伺ってきましたが、声を使った遅事で福祉に対してどのように関わりが持てると思いますか?──
杉:僕はラジオの中でお喋りさせていただいているんですけど、テレビと違ってラジオは映像がないメディアで、耳だけで楽しめるコンテンツなので、視聴者の中にはそういう人もいるんだよというのを意識するように、と言われたことがあって、今でも心に留めていますね。
m:素晴らしいですね。私の場合は間接的になるんですけど、福祉のお仕事されている方のナビゲーションであったりとか、紹介ムービーに出てくるキャラクターに声をあてたりだとかで、関わりはちょこちょこありますね。
杉:声の力というところで話していきたいんですけど、ラジオやアニメ、ナレーションとか今までの話の中でいくつも出てきたと思うんですが、それぞれで綺麗に話すとか、キャラクターの特徴に合わせて話すとか、そのときどきで情報を聴く人に伝える喋り方というのは、プロとして大事な事だと思います。どういうふうに伝えれば「ちゃんと」一発で伝わるんだろうかななんてことですね。
m:声の情報量の多さってありますよね。情報をただ伝えるだけではなくて、安心感であったりとかを伝えられるように声を使って、福祉の力になることができれば幸せですね。
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m:ナレーションって難しいですよね。私も現場でお仕事をさせてもらっていて、福祉のVTRでナレーションはムードとしてはブラックフライデー感があったりとか。「辛いよね」、「苦しいよね」みたいな空気感があって、ナレーションの声もそれに寄ってたりしますよね。
杉:昔、福祉番組のナレーションをしていきませんかって話があったときに、「良い社会を目指すための番組なんです」って言われたことがあって、良い社会って何なんだろう?って考えさせられた事があります。
──会社や福祉施設に来られる方はどういう印象がありますか?
杉:エンタメの世界に居続けるには個性という名の武器が必要なんですけど、その武器になるのって何か失敗したことや、弱さや苦しさだったりもするわけです。それを出すのが仕事みたいなところもあるから。だから福祉施設で出会う方たちって凄いなって思うんです。色んな経験されていて、ちゃんとそれに向き合って生きてこられた方たちだから。感情を揺さぶる強さみたいなものを持ってるなって思います。
──福祉をテーマにしたコンテンツは増えてきていますよね。
杉:声の使い方ひとつでも変わりますよね。情景をただ伝えるだけではなくて、安心感とか、あったかみを伝えたいなら声色を使って。福祉の力になれることができれば幸せですよね。
m:武器かもしれない。
杉:武器だと思いますよ。
m:活かし方次第で変わるかもしれないですね。線引してしまうと、出来ない、ダメっていう風になってしまうのはもったいないって思ってて。せっかく今の自分があるのって、過去の経験とか、失敗があるからじゃないですか。いろんな人がいることが当たり前の社会の中で、それを受け入れ合える社会があるのなら、これは武器だし、可能性があるかもしれないなって思います。
みんなちがって、みんないい
──昨今いろいろな場所で聞く「多様性」についてお伺いしたいと思います。──
m:多様性って広いですよね。でもだからこそ私が思うのは金子みすゞさんの詩「みんなちがって、みんないい」ってあるじゃないですか。(*1) この詩ってそれぞれの心に響く言葉だと思うんですけど、あの「みんなちがって、みんないい」を社会的にやるべきことなのかなって思うんです。「あなたはこうだから、ここはだめ」と拒絶するんじゃなくて、「こういう特徴がある方はこういう場所がありますよ」、「こういう人はこういう物がありますよ」というのを社会とか企業や町とかの単位でやっていくのが多様性なのかなと思います。心にあるものじゃなくて、社会としてやっていくものになっていくんじゃないかしらと思います。
杉:さっきも「線を引く」という話をしましたが、多様性を受け入れるということは線を引かないということなのかなって凄く思うんですよね。で、自分がラジオの仕事をしてるからなんですけど、ラジオって音声だけのメディアなので、僕がスタジオで喋っていても、視聴者はこっちの顔も見れないし、僕たちもどんな人が聞いてるか分からない。そんな中で想像力を働かせて、自分はこういう考えだけど、別の意見を持っている人もいるんだろうっていうのをちゃんと頭の中に置きながら喋るわけですよ。なかなか難しい事ではあるんですが、日常生活でもやっぱりそういう事は常に考えないといけないと思います。自分の意見を持つというのはとても大事。でも、違う意見をもつ人に対して線を引いて、「お前は違う人だ」じゃなくて、いろんな考えを持つ人がいるということを常に意識することが本当に大事なんだと思います。
m:自分の知らない世界を拒絶するのではなくて、一旦受け止める。非難するのではなく、「お前は違う」と言うのではなくって受け止める。差別感情はあるかもしれないけど一旦飲み込む。それから自分の意見を考える。とにかく一度受け入れる事。
杉:受け入れるためには、相手のことを想像する事も必要ですし。
m:相手の背景を知る事も大事ですし、気持ちとか生活だったりとかね。
杉:『みんなちがって、みんないい』ですね。
なぜ多様性が求められるのか
m:難しいけど、この質問を見てパッと思ったのは、今多様性が求められるんじゃなくて、ようやく多様性が求められるようになってきたのかなって思います。もっと早くて良かった。もっと早く取り組むべきだったけど、社会が変わるのにも時間がかかる。少しずつ求められてきたものが、ようやく今求められてますよって形になってきたのかなって風に思います。ようやく。
杉:多様性っていうのは多分ずっと昔から求められる部分っていうのはあったとは思うんですけど。
m:ずっと前からあったはずです。
杉:でもやっとちゃんと言えるようになったというか、その段階まで今来たんだっていう感覚はありますね。
m:やっぱりSNSもあるし、いろんなメディアが発達していて、発信するって事が簡単に誰でも出来るようになってきた。それで、「こういう苦しい思いを実はしてました。」「昔はこうでした。」「これがちょっと今辛いです。」っていう声を拾えるようになってきたのかなって。発信するようになってきたし。ようやく世界が変わり始めたという、そんな感じはしますね。だからこそ、さっきも言ってましたけど、世界で取り組むことじゃないですか。まぁ日本でももちろん。だからいろんな意見が出てくるので、どう社会を変えていくかっていうのが今凄く大事なんじゃないかなっていう風に思います。
杉:僕は海外の事はわからないから、日本に暮らす一人の日本人としてやっぱり日本の社会って、みんなが「一緒」っていうのを求めがちな所だなって感じるんですよね。エンタメでいうと、例えば、僕は音楽が好きなんですけど、海外の映像とか見たら、皆がそれぞれ楽しんでるんですよね。音楽に対して自分はこう楽しむ、すっごく音に踊ってる人もいれば、合わせて一緒に歌ってる人もいる。それをみんなでやろうぜっていう雰囲気じゃなくて、それぞれで楽しもうっていう雰囲気がちゃんとある。でも、日本のシーンだと、ここで手を挙げて「オイオイー」やろうぜとか。なんかこうみんなで一緒みたいなものがあって。もちろんみんなで一緒に盛り上がるっていうのもすごく楽しいんですけど。
m:そう、それも大事なんですよ。みんなで一つになった時しか味わえない快感ももちろんあるから、良いとか悪いとかいう話ではなくて、でも、そうじゃなくてもいいじゃんという。
杉:そういう特性を持っていて、その楽しさを知ってるからこそ、「皆が一緒じゃなくても良い」って感覚を強く自分の中に持たないってのは凄く感じますね。
m:「楽しみ方はそれぞれで、良いじゃん」っていうか、体感を楽しんでいる人だからこそ異色に見えてしまって「それってどうなん?」って声が生まれてきてしまうんですよね。私は、それは問題な気がしていて。「皆と一緒が楽しいじゃん」って、人の考えを受け入れられないとやっぱりその差別とか言い争いだったり、しんどい事が生まれてしまう。まずお願いしたいのが、「そういう人がいて当たり前」、「人と違う事をするのが普通よね」、「そういう人もいるよね、でも自分はこうなんだ」、「ああいう人もいるよね。でも自分はこうなんだ、それで良いよね」っていう考えを皆が持てるようになって欲しいなと思います。
杉:そうですね。ライブの事で言うと、自分だけ周りと全然違う動きをしていて、隣の人にぶつかってしまって迷惑をかけるのはもちろんダメ。
m:犯罪とか、人を傷つけることだったりとか、そういう感じは良くない。けれども、そうならない範囲で。
杉:お互いにちゃんと相手の事を気遣って、相手の事を想像して。多様性を受け入れるっていうのは凄く大切なことだと思うし、「皆と一緒に」っていう特性を持っているからこそ、「そうじゃない考えもしっかり受け入れなきゃ」という思いを持つ事は凄く大切なのかなと思います。
m:結局は思いやり。相手の気持ちに立って考えてみる。想像を持って、相手にどんな言葉がわかるか、どういう言葉だと傷つかないか、相手を思いやり合うっていうのが結局大事ですよね。
対談を振り返って
m:ほんとにいろんなテーマとか、考えが聞けて面白かったですね。自分の意見もあり、杉浦さんの意見もありつつ、なんとなく未来を見てる方向性は一緒なんだなというふうに感じられて、ちょっと安心もしました。同じような気持ちを持った人たちが、これを見て増えてくれると嬉しいですね。
杉:僕がやっているエンタメという軸もあっての話だったので、少なからず自分ごととして捉えることができましたし、自分がこの対談から得たものもあったように感じます。
杉:障がい者の方は個性の塊のような人だと思っていて。みなさんいろんな可能性持ってると思うんです。なのでアニメという枠にとどまらず、エンタメ業界全体でこういう個性をもった方がもっともっと出てくるような形になればいいなと思いますね。
m:私たちがいるエンタメ業界じゃなくてもいいんです。自分にはこういう場所が合ってるとか、自分はここで活躍できるんだという場所と巡り合えることを心から祈っています。
杉:唯一心配なのは、すごい個性をもった人がいっぱい出てきて、ラジオで僕とキャラが被る人が出てこなければいいなって。
m:ああ怖い、ライバルがいっぱいですね。
杉:そうなんです。
m:我々も個性磨かないとっていうところで、また現場でお会いできる日を楽しみにしましょう。
*1 金子みすゞ「私と小鳥と鈴と」より